この頃悩まされたことに、幻聴と悪夢があった。私たちの病棟では、新人看護師が積極的にナースコールに出る、といった風習みたいなものがあった。新人ナースは一人前に仕事ができないのだから、せめてナースコールくらい出ろ、といった決まりだったのだ。
だから、どんなに自分の仕事が忙しくても、その仕事を中断してナースコールに対応しなければならないのである。時には、ナースコールを引っこ抜きたい、と心から思うほどひっきりなしに鳴り響くこともあるのだ。
それともう一つ、敏感に対応しなければならないことがあった。それはモニター類のアラームである。心電図モニターやら酸素飽和度モニターのアラームなど、モニター類のアラームは患者さんの異変をあらわす重要な指標だからだ。これに敏感に反応することを先輩看護師に徹底的に教えられた。うっかりアラームの音に敏感に反応しないものなら、ものすごく怒られた。

こうしてナースコールやモニターのアラームに悩まされているうちに、家に帰ってもそれらの音が聞こえるようになったのだ。
お風呂に入ってゆっくりしている時に、たしかにナースコールが鳴り響いたり、自転車に乗っている時に、モニターのアラーム音がはっきり聞こえたりするのだ。これは気のせいではなく、本当にはっきり聞こえるのだ。
この時私は思った。確実に私の精神は病んできていると。こうして家にいてもナースコールやモニターのアラームに悩まされるようになった私であった。
その他に、新人看護師の時には悪夢によく悩まされた。休みの日の朝方5時くらいにがばっと飛び起き、「やばいっ!!5時の締めがしてない!!」とパニックになるのだ。“締め”とは、重症の患者さんは2時間ごとにバイタルサイン(血圧や心拍などの生命徴候)や体の水分出納量(点滴や水分がどれだけ体に入ったか、また尿などとしてどれだけ出ていったかといったバランス)を締めて、異常がないかチェックすることである。
休みの日の朝なのに、夢で自分が夜勤をしている気になっていて、夢と現実がごちゃまぜになりパニックになって飛び起きるのだ。しばらくして段々現実に気づき、自分に「落ち着け、落ち着け、今私は家にいるんだから」と言い聞かせ、ドキドキしている心臓を落ち着けるのであった。
こういう悪夢がよくあった。まったくもって心臓に悪かった。このままでは私が病人になってしまうのではないかと、本気で心配したくらいであったのだ。
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