もう一つ、看護師になって得た感覚というか感性みたいなものがある。それは“場の雰囲気”というか“気”みたいなものに敏感になったということである。きっと私の他にもこういうことを感じている人は多いはず。
病棟、特に私が勤めているような急性期の病棟というのは、患者さんの病状がまだ不安定で変化が起こりやすい状態の人が多かったりする。あとは、死の直前の人もけっこう多い。すると、患者さんの急変や死を看取るといった場面がよくあるのだ。要するにこういう病棟で看護師をやっていると、修羅場を数多く経験する。
私だけではないと思うが、できれば急変や死の場面には立会いたくはない。特に私は急変が大の苦手だった。患者さんが急変すると、医師を呼ぶ非常事態ようのコールみたいなものが鳴り、医師が何人も駆けつけてくる。看護師ももちろんたくさん集まってきて、物が散乱するわ、怒号が飛ぶわ、その場はまさに戦場(普段もそうだがさらにそれ以上)のように殺気立った雰囲気の状態になってしまう。
このような時に、慣れている人がいないと、医師も看護師もパニックになりがちで、普段できるものもできなくなってしまうのだ。それでも患者さんが助かればいいが、助からなかった日には・・・。
とにかく、急変の場面に立ち会うと、自分の心臓がおかしくなってしまうのではないかというほどの、極度の緊張と疲労に襲われるのであった。
私はこのようなスピードと緊張が必要な場面が、めっぽう苦手であった。普段から仕事のスピードは速くないほうだし、性格ものんびりしている。自分が看護師として勤務をしている間は、いつも急変が起きないよう心の中で願っているくらい苦手なのだ。
だから、勤務に入るときは(特に夜勤の時)、今日は急変が起きそうか、ということを確認するために、病棟全体の雰囲気をチェックするようになった。すると、そのうち何となく、今夜は荒れそうだ、とか今夜は落ち着いていそうだ、などというような匂いというか雰囲気を感じるようになってきたのだ。
もちろんいつも当たるわけではないが、何となく勤務に入った時に感じる勘みたいなものは大事にするようになった。
このようにして、いつのまにか病棟の雰囲気や患者さんの様子を把握するのに、病態などのように目に見える科学的な情報だけでなく、雰囲気というか“気”みたいなものを感じ取るようになっていった。というか、自分でそういうものを感じ取ろうと無意識のうちに訓練していたのかもしれない。すると、色々な場面でそのような雰囲気や“気”みたいなものを以前よりも敏感に感じるようになった。感じるというか、その感覚を大切にするようになったのだ。
こういうことを通しても、やはりこの世の中の事象というのは、科学的に説明できるものがすべてではないということを実感するのだ。よくテレビでも“オーラ”の話などがでてきたりする。私にはオーラとか霊とか不思議なものを見る能力はまったくないが、きっとそういうものはあるのではないかと思うのだ。オーラみたいなものがあるからこそ、私たちは病棟で言葉にはできない何かを感じることがあるし、患者さんや家族から受け取る“気”みたいなものも感じるのだ。
ということは、きっと私自身からもきっと何かオーラみたいなものを発しているはず。だから、自分の発する“気”みたいなものを良いものにしておかないと、周りの人に与える影響も悪くなってしまうかも・・・。そんなことを看護師になってから感じるようになった。
ちなみに、怖い話になってしまうが、病棟で無人の部屋のナースコールが鳴ったりする怪奇現象を私は何度も体験している。本来ならものすごい怖がりの私だが、不思議と病棟ではあまり怖い気がしない。自分が知っている患者さんかもしれないと思うからだろうか。
その中でもとてもよく覚えている件がある。ある時入院していた若い男の子が、残念ながらみんなの願いも叶わず亡くなってしまった。彼のことはみんな今でもよく覚えているほど、印象深い男の子だった。
その彼が亡くなった次の日、たまたま日勤で私が働いていたら、彼がいなくなってすぐのまだ誰も入っていない部屋から突然ナースコールが鳴ったのだ。みんなで顔を見合わせ「○○君が呼んでる・・・?」と言った。もしかしたら天国から私たちに何かを伝えたかったのかもしれない。
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